YUTTE 売豆紀 拓さん

「縁結び」の街の魅力を、モノとコトで伝えるYUTTE

島根県と聞けば、出雲大社が思い浮かぶ。いや、出雲大社=島根が繋がらなくても、出雲大社=「縁結び」の神様は、広く知られているだろう。出雲大社のホームページによれば、「縁結び」とは、「単に男女の仲だけのことではなく、人間が立派に生長するように、社会が明るく楽しいものであるように、すべてのものが幸福であるようにと、お互いの発展のためのつながりが結ばれること」を意味するという。まさにそうした思いを込めたギフトボックスを、島根県松江市で受注販売しているのが、YUTTEの売豆紀拓(めづき たく)さんだ。YUTTEという名も、縁結びの「結(ゆう)」をアレンジしたもので、結う行為をデザインしたロゴマークがセットになっている。


 YUTTEがつくるギフトボックスの大きな特徴は、中身はもちろん箱までも、すべてメイドインシマネだということだ。器をはじめとする工芸品、神事や茶事に紐づく食品。それらを組み合わせて、菓子箱として手作りされてきた貼り箱に、感じよくまとめてくれる。器と食品がいっぺんに揃うことで、ギフトを受け取った人の生活に、メイドインシマネの食卓シーンが出来上がる。モノだけでなくコトも届けるギフトボックス。そのアイディアはどこから生まれたのだろう。




地元・島根とのご縁、それをカタチにするスキルを得た東京時代

 売豆紀さんは、2014年7月に島根に帰郷した、いわゆるUターン。約12年間を東京で過ごしている。18歳で上京し、さまざまなバイトを経験した後、インテリアが好きだったことから、高度成長期に誕生した日本製家具の復刻ショップに参加。自身も好きな家具とあって熱が入り、おのずと販売実績も上がって、「人生で意味のあることをやっている最初の充実感」を味わった。その縁で知ったロングライフデザインをうたうセレクトショップに、ネットショップの店長候補として就職。WEBサイトやネットショップの製作・管理も担当した。そこで47都道府県の製品や食品を紹介する企画展があり、地元である島根の作り手たちと知り合うことになる。地元にいた高校生までの間には気づかなかった2つのことが、わかるようになっていた。ひとつは、「島根にはいいものがたくさんある。民藝運動の流れを引き継ぐ器もそうだし、島根が発祥と言われるぜんざいなどの食品もそう。神事やお茶を背景にした生活文化がいまも残されている」という良い点。もうひとつは、「ただ、それを外に伝えることが下手というか、専門知識を持っている人がいないから、いいものづくりをしていても外に出ていかない」という課題だ。ネットでものを売ることができたら、地元の人には販路がひとつ増えるというメリットになる。WEBショップをプロデュースできないか、とふんわり思うようになった。


 そうした折、偶然見ていた雑誌でWEBサイトによるブランディングの記事を見つけた。「これだ!」とピンときた。でもそこは慎重に、「今の会社は辞めないが、話だけ聞かせてほしい」と連絡。いま思えば都合のいい話だが、人は思いが強いときはずうずうしくもなれるものだ。その考え方を簡単に言うと、イメージと商売を分けて考えず、商売でイメージを創り上げる、というもの。お客様にとっても企業にとっても一番ダイレクトである「ものを売ること」に、ブランドの表現を組み込むという手法だ。結局この会社に転職し、ディレクターとして複数のECサイト立ち上げに関わった。上京して、かれこれ10年以上が経っていた。



結婚、妻の妊娠。プライベートとリンクしてYUTTEが誕生。そして島根へ。

きっかけは、自身の結婚式の引き出物だった。パートナーは中学の同級生。せっかくなら地元のものを贈りたいよね、と相談していたときに、47都道府県のギフトボックス展が頭に浮かんだ。あの考え方を引き継いで、自分たちで作ればいい。

器は出西窯、森山窯、石飛勲さんからセレクト。食品は出雲ぜんざい、出雲そば、ふくぎ茶。贈る人の家族構成や好みを思い浮かべて組み合わせ、なんと16種類60個を完成させた。箱はネットで購入したものを利用し、梱包はショップに依頼したが、作り手のことや食品の由来など、すべてのものの説明書を同封した。YUTTEの原型誕生だ。

 引き出物はとても好評だった。自分の生まれ故郷のものだけが詰め合されて、それらがちゃんと説明されていたら、おそらく多くの人が喜んでくれるだろう。けれど実際に個人でやるとなれば大変な労力だ。ネットで受注できるようにしたらビジネスになるかもしれない、とひらめいた。しかも引き出物は在庫リスクがないため、商売としても安心。納品までの期間をしっかりとっておけば、うまく回転できるだろう。Eコマースに強い会社にいたこともあり、自身は東京にいながら、そういう仕組みをつくってサービスを委託しようと考えていた。ただ島根のものをセットしたり出荷したりといった実働機能が、地元にどうしても必要になる。そこで現シマネプロモーション社長の三浦大紀さんに相談。それから約2年後、シマネプロモーション設立の際に、同社の事業としてYUTTEを立ち上げることになった。構想が実現するのだ。同時に、売豆紀さんも島根に戻ろうと決めた。ちょうど子どもを授かったことも背中を押した。



普通の人たちにササル、そぎ落とされたコアなものを作りたい

 仕事は順調で、引き出物の需要が中心。依頼はほとんど島根の人だが、たまに県外からの注文もある。その場合も両親が島根出身だから感謝の気持ちと伝えるためなど、なんらか島根に縁があることが多い。予算や希望を聞いて詰め合わせを提案し、そこから調整していくセミオーダー方式。いうなれば「ブライダルプランナーの引き出物バージョン」だ。また引き出物以外では、コンテストの賞品や友人へのプレゼントなど、1個からの注文も受けている。そうした需要に応えるために、今後は定番セットも増やしていく方針だという。

メイドインシマネのギフトボックを育てていく上で、売豆紀さんが最も大事にしているのは、ウソのないもの選びだ。まず自分たちが食べたり使ったり、作り手に会って話を聞いたりして、納得できるものを探し出す。出雲そばならあらゆるメーカーのものを食べ比べ、一番おいしいと思うものを選ぶ。もしそこを怠たれば、物の種類は増えるかもしれないが、どこにでもあるネットショップと同じ。魅力は生まれない。かといって、民藝好きのコアな人たちだけをターゲットにしているわけではないという。

「限られた嗜好の人たちだけじゃなくて、普通に生活している人にこそササルものをやりたい。そうでなければたぶん続いていかないし、井の中の蛙のような気がしている。でもそれは最大公約数的につくることじゃない。そぎ落としたコアなものに、多くの人が集まることはあり得ることです。そういうものにしたいと思っています」

今年の夏にはショールームも開設予定で、使う可能性のある人のそばで直接相談を受けつける。需要はもっと増えるだろう。夜中の梱包作業は「けっこうしびれる(笑)」が、「最高に楽しい」日々が続きそうだ。




街づくりは自然発生的に。やりたいことをやる人たちが集まれば、面白い街になる。

実は売豆紀さん、上京して3年目くらいから島根に帰りたいと思い続けていたのだとか。

それほど恋しく思う島根の魅力とは?「技術の高い作り手がいて、センスのいい人たちがいる。自然が豊かで食べ物がおいしい…… 本当を言うと、理由はないんですよ。生まれ故郷だから好き。シンプルに。帰巣本能っていうか、ただ生まれた場所に居たいだけ」。

でもどこの地方もそうであるように、地元に仕事は少ないし、自分自身も何がやりたいのか、何がやれるのかがわからなかった。いまはやりたい事を見つけ、やれるスキルも身についた。YUTTEには、売豆紀さんの故郷への想いと東京での日々も詰まっている。

 そうした経験から思うのは、街の活性化は単に仕事が増えたとか、便利になればできるとか、こういう機関ができればよいというわけではない、ということだ。

「自分のやりたいことをやっている人たちが集まることで、面白さが生まれる。盛り上げようというイベントをやるのではなく、やりたいことをやったら勝手に盛り上がったというのが、当たり前の街づくり。そういう人たちに的確なサポートをすることもカギになるでしょう。面白そうだから、帰ってみよう。そう思われることをやりたいですね」

島根は個人のネットワークで仕事が生まれやすい環境だという。売豆紀さんもYUTTEと並行して、個人的な繋がりからWEBデザインの仕事も請け負っている。島根県民は外からの人を受け入れて、もてなす気質だとか。面白そうな人や街の楽しさに魅かれ、互いに発展できるご縁を感じたら、島根を訪れてみるのもよさそうだ。


文:甲嶋じゅん子

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