保存食専門店「stoock」店長 中村裕一さん

“勿体ない”から生まれた、シェフ特製「金沢のピクルス」


「stoock」の文字の2つのoが、リスのほお袋になったかわいいロゴ。リスのイラストが伝えてくれるように、蓄えているのはおいしい食品。「stoock」は保存食専門店だ。

 オーナーの上宮大輔さんはシェフとして仕事を続けるなかで、流通にのらない規格外の野菜が廃棄される現状に何かできないかと考え、ピクルスをつくることに。親しい農家さんの協力も得て、特産の加賀レンコンをはじめとした「金沢のピクルス」として、卸しをスタートさせた。「酢のもの、素のまま、そのまんま」のコンセプトで、素材の味を活かしたマイルドなピクルスは徐々に口コミで広がった。そこでオリジナル商品にジャムを加え、さらに北陸に伝わる保存食の知恵を活かした地元の商品も様々に取り揃えて、金沢に保存食専門店「ストック」を2014年12月にオープン。地元の人や多くの観光客が訪れる人気店になっている。このショップを2015年末から任されているのが、ここでご紹介する、3代目店長こと中村裕一さんである。



アパレル業界から一転、かつての縁で店長に即決!



 中村さんとオーナー上宮さんとの出会いは、いまから10年ほど前にさかのぼる。金沢出身の中村さんは、石川工業高等専門学校の機械工学科を卒業。1年間就職したものの、好きな洋服を学びたいと服飾の専門学校に入り直した。卒業を控えて地元企業に就職は決まっていたのだが、もっとファッションよりの仕事がしたいと東京行きを決意。その資金をつくるためにバイトしたレストランで、シェフをしていたのが上宮さんだ。上宮さんは中村さんの目的を知り、できるだけ働けるように融通してくれた。その協力もあって、半年ほどで順調に資金が貯まり、中村さんは満を持して東京へ。

 最初に入社したのはメンズカジュアルのメーカーで、企画から営業までを6年間経験。その後関連メーカーに1年勤務したのち、アウトドア ライフスタイル ブランド「スノーピーク」のアパレル部門に転職。立ち上げの企画が終わったばかりの、まだデザイナーが2人だけでスタートしていたころで、中村さんはアパレルメーカーで得たスキルを発揮し、デザイナーと工場などとの橋渡し役を務めた。新しく生まれ出たブランドでの、がむしゃらなエネルギーに溢れた1年が瞬く間に過ぎたころ。プライベートな事情で、急きょ金沢へ帰ることになる。

 上宮さんがピクルスの卸しと専門店を出したことは聞いていた。そこで「どちらか困っていませんか?」と連絡したところ、「店を任せるほうならあるよ」とのこと。中村さん曰く「2秒くらいで」店長就任が決まった。



中村式 接客メソッドは、人との関係を楽しむこと。



 店長初日のことを伺うと、「レジの打ち方を30分教わって、以上って言われました(笑)。空いた時間に商品を見て、値段とかチェックして。あとは雰囲気で」という。とにかく順応性が高く、物おじしないタイプらしい。その上フレンドリーだから接客もお手の物。そのあたりをオーナーはバイト時代に見抜き、期待したようだ。

 中村さんには、男女別の接客メソッドがある。まず女性の場合は、お店に入ると開口一番「かわいい!」と好印象を持ってくれる。じゃ、お店ごと買うしかないなと思うのだが、そうはいかず、彼女たちの頭の中では独自のCPUが回転。「このお店で私が使っていい金額はこれくらい」「瓶ものだから重いよね」「持ち運び大変そう」などなど。。。そして挙句「家にジャムあったわ」となる。そのCPUは読み切れない。だからたとえ来店時のテンションとは裏腹な結末でも、中村さんはまったく気にしない。そんな女性たちにつかず離れず明るく声をかけ、いろいろ試食をしてもらい、帰り際には「また来てくださいねー」と軽く言葉を添える。店での時間を楽しんでもらえればいいと思う。その時は買い物をセーブしても、インプットされた美味しい情報は、脳に刻まれるのが女性というもの。女性はリピーターになる人が多いのだ。

 一方、男性はまったく違う。本当は・・この・辺の商品が気になっていても、・・その・辺を見ていたりする。「何か探してますか?」と聞いてみると、ギフトとかホワイトデーとか、いろいろと話がはずむ。試食して良いと思えば重かろうが何だろうが構わず購入。おじさんはさらに話が早く、「この予算でギフトを」と、スパッと一本決めだ。中村さんが話す男女それぞれの心理は、思わずあるある~と苦笑するくらい、合点がいく。素晴らしい観察眼。

「人間は面白いですよね。僕は読書が好きで、小説などからも心情を学びます。やる気を高めるメソッドなどにも興味があって、その種の番組は見て勉強しますね」



互いの心地よさを優先した「仕込みのお手伝い」が、ファンづくりに。



 そうして得たアイディアを取り入れたのが、「仕込みのお手伝い」だ。参考にしたのはある飲食店のシステムで、人手がほしいピークタイムにお客様に手伝ってもらい、そのお礼に一食を提供するというもの。金沢は女性の一人旅が多く、ストックのお客様も例外ではない。で、大体無計画。日曜日の夕方、女性客に明日の予定を聞いてみると、「美術館に行きたくて」といい、「月曜日は休みですよ」「えっ!」となる。時間があるから、営業の邪魔をしないように気づかいつつ中村さんとおしゃべりして仲良くなり、最後にたくさん買ってくれる。その間、中村さんはずっと野菜の仕込みをしている。

「ネットで見たとき、これだ!と思いました。お手伝いということならお客様も店にいやすいし、楽しければフェイスブックとかにアップしてくれるかもしれない。その日の夜にオーナーに話し、すぐに始めました。」

 お手伝いしてもらうのは、トマトのヘタを取るなどの簡単な作業。とはいえ商品にする材料なので、プロが最後にチェックするルールを設けている。バイトと違い、仕事があるときならすぐにできて、お互い気が楽だし、お礼にオリジナル商品を差し上げているのも好評だ。予想に反して地元の主婦が興味を持ち、必要な時に連絡くださいと言ってくれる人や、レギュラーで来てくれる人もいる。「子どもにいろんな体験をさせてあげたいんです」と声をかけてくれた人も。何かを始めると、いろんな反響がある。それが面白い。



人間関係をスムーズにする昔の日本の知恵を、サービスとして実践。



 中村さんが始めたアイディアには「恩送り」というものもある。「恩送り」とは、誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の誰かに送ること。そうして恩が世の中をぐるぐる回っていくことを表し、江戸時代には普通にあったとも言われる。中村さんはこの言葉の概念がずっと好きで、思いついたときに誰かに小さなプレゼントを渡すサプライズを実践してきた。とても喜んでもらえるし、こちらも良い気分になる。

 ストックではギフト需要も多く、もらった人が今度は誰かへのギフトを求めてお店に来てくれることも少なくない。その行為に「恩送り」の概念がフィットすると考えた。数百円のプレゼントでも、別の誰かに「心づけです」として渡してもらえたら、人間関係がスムーズになって楽しいはず。そうした行動がどんどん増えていくように、ギフト客にはお店からのサプライズプレゼントをしている。たとえば少しだけ余ったスペースに、ひと品プレゼント。箱にピッタリなら箱代や送料をサービス。ケースバイケース、その時の発想でサービスする。こうした臨機応変な対応ができるお店、最近少ない気がする。

「そのほうがライブ感があって、やってて楽しいでしょ(笑) 面白いことをやって記憶に残ったほうがいいと思ってます。こういうサービスをしたいから、利益率をよくしていきたいし、メーカーさんにお願いして試食品を提供してもらう。余裕がないからできないでは、前に進んでいかないから」

 


畑でつながる食と衣、そして人。融通が利く社会を仕込む。



 お店の発展に貢献している中村さんが、一方で力を注いでいるのが「和綿」の栽培だと話す。金沢に帰郷が決まったころ、日本の在来種の保護活動をしているパタゴニアの元日本支社長ジョン・ムーア氏から、分けてもらった種だ。ストックで取引のある農家さんに種を育ててもらい、自治体にも声をかけて、新たな特産品への道を一緒に模索。自身は「ブランド化して原料の仕事をしたい」という希望を持つ。持ち前の行動力で、糸紡ぎの技術を持つ美術大学の教授とも繋がりができ、少しずつ人を巻き込んで一歩ずつ前進している。

「20粒から始めて、今はどんどん増えています。乾燥地帯ほど高品質の綿が採れると言われますが、日本一湿度が高い石川県で、これ以上ないほどしっとりした綿を作って、カウンターパンチを食らわせたい(笑)」

 思いがけず食品の製造販売に携わることになったが、好きな衣類も原料は畑から。畑へ通うことで両方の知識が活かせるし、並行して活動できる。結局、衣食住はつながっているのだから、循環システムを取り戻していきたい。それによって目指すのは、

「生きていく上でのコストを、一度最低まで下げたいんです」

 その思いの背景には、8年間を過ごした東京での生活がある。クリエーターだからしょうがないと、終電まで業務に追われ、本当にやりたかったはずのデザインができているのだろうか?その状況を支配しているのは、住むこと食べることといった、圧倒的な生活コストの高さだ。生活コストによって、やりがいが搾取されているんじゃないか。であれば、食事を二人分作ってシェアするとか、融通しあうことで改善される問題もあるはずだ。さらに空き部屋を一人暮らしの高齢者に提供するのもいいだろう。

「いろんなルールを、あえて無視している部分もあります。でもそうしないと面白いことは生まれないし、実際やってて面白い。やりたいことがある人が、ここに来ればできる環境にしたいですね」



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中村裕一さんプロフィール

1982年金沢生まれ。
25歳の夏から33歳の冬まで、東京のファッション・アパレル業界に揉まれ、帰郷。
金沢で「これからのちょうど良い生き方」を模索している。

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保存食専門店 ストック

石川県金沢市尾張町2丁目9-26

TEL&FAX 076-255-1283

営業時間 10:00~18:00(夏期営業時間 10:00-19:00)

定休日 不定休

http://www.stoock.jp/


ストック 八百萬本舗店

金沢市尾張町2丁目14-20

TEL 076-213-5148 FAX 076-213-5149

営業時間 10:00〜19:00

定休日 毎週水曜

http://yaoyoroz-honpo.jp/shop.html#5

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写真:高野尚人 文:甲嶋じゅん子