雨の金沢を旅の魅力に変えるホテル「雨庵 金沢」オープン!

日本海側といえば、いつも心配するのは雨。金沢には「弁当忘れても、傘忘れるな」という古い言い伝えがあるそうです。それだけ雨の多い地域なのです。どんより低く雲の垂れ込めた天気は、気分も沈んでしまいそうになりますが、そんな雨の金沢を豊かに心地よく過ごせる、新しいコンセプトのホテルがオープンしました。私たちの立ち上げた「GRAYSKY project」も、まさに日本海側の空を象徴し、だからこそ得られる魅力がある、と確信していることから勝手に共感。興味と期待と親近感に、はやる気持ちを抑えつつ、ホテルを訪ねました。 「雨庵(うあん)金沢」は2017年12月1日オープン。金沢駅からはタクシーで5分ほど。金沢観光するなら誰もが一度は行く食の宝庫「近江町市場」がすぐ近くにあります(新鮮な魚介や地元野菜を購入したり、その場で食べたりすることができます)。金沢城公園を抜けると、兼六園もお散歩圏内という便利な立地。ホテルに夕食は付きませんが、東茶屋街と香林坊のちょうど中間地点にあるため、観光名所にも繁華街にもアクセスが良く、夜もふらりと気軽に出かけやすい場所です。 ホテルの外観はかなりシンプルで、まるで料亭のように、ひっそり表札がかかっているだけ。しかし中に入ると、木の質感が清々しく心地よい、広々としたラウンジがあります。モダンな和の要素をちりばめた奥ゆかしいインテリアで、ゆったり寛げる雰囲気です。


雨をテーマにした印象的なアート作品を館内に展示  

ホテルのテーマはずばり「雨」。雨をどのように楽しみ尽くすか、細やかな工夫があちこちに凝らされていました。まず、エントランス入ってすぐ目を引くのが、数千本もの細い糸で構成された繊細なアートオブジェ「雨虹糸」。金沢を拠点に活動するクリエイターチーム「secca」による作品です。まるで霧雨が降るかのように様々な色の糸が緻密にリズミカルにぎっしり配置された様子は、ついいつまでも見入ってしまいます。この色糸はただきれいだから並べているのではなく、ちゃんと法則があります。気象庁のデータを元に、2001年1月1日から雨庵の建物が完成した2017年9月30日までの金沢の雨の情報が表現されているのです。降水量ごとに色を分類し、晴れの日を白、雨の日を7つの色で分け、縦列は日、横列は年を表しているそうです。アート観賞しながら、金沢の17年間の降水量がビジュアル的に分かるという仕組みです。実際にどのくらい雨が多いのかを、ここでリアルに体感することができます。

さらに、ラウンジ「ハレの間」には書家、紫舟氏の作品を展示。紫舟氏は、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」や、美術番組「美の壷」などの題字で有名な書家であり、国内外で数々の賞を受賞するなど国際的にも評価の高いアーティストです。「書の彫刻」として立体的に表現された“雨”の文字が、ふわりと宙に浮かんでいます。遠くから平面として見ると確かに「書」なのですが、近づいて見ると個性的な立体の「彫刻」であり、角度によって文字が動き出すように感じたり、影との対比が面白かったり。まるで生き物のような不思議な存在感があります。 

館内にほのかに漂う香りは、オリジナルの香「雨庵 かおり箱」。志野流香道・蜂谷宗苾氏とのコラボレーションで生まれた香りです。「雨に濡れた石畳の風景を連想させる、瑞々しくも静けさを感じさせる香り」をイメージし、白檀をベースに桂皮、龍脳などの伝統的和の香料や、キャロン・ペパーミントなど現代的な香料12種を調合した特別な香りでおもてなしを表現しています。白檀は日本人にとって馴染み深いせいか、どこか懐かしくホッとする、和やかさを感じました。一方海外の方にはエキゾティックで神聖な雰囲気を感じるかもしれません。桐箱に入ったかおり箱は販売もしています。


朝も夜も、ラウンジが多様に楽しめる贅沢なスペースに  

このラウンジで宿泊者は自由に寛ぎ、金沢の特産品である加賀棒茶をいつでもいただくことができます。スタッフが選んだ、お茶に合う地元のお菓子も用意されていました。金沢にちなんだ書籍、アートブックなどを揃えたライブラリーや、金沢のアーティストの作品、伝統工芸品などを展示(販売)したギャラリースペースもあるので、思い思いの時間を過ごせます。また、夜はなんとラウンジに日本酒バーがオープン!良質な地酒を多数揃える地元の酒販店店主がセレクトした、とっておきのお酒を味わえます。日本酒講座などのイベントも検討中だとか。シメにはお蕎麦の無料提供もあります。(21:00~23:00)

朝食は、地元食材をたっぷり使った、和か洋の定食(有料)があります。私たち取材チームは二人だったので、ぞれぞれ和と洋を選んでみましたが、素材ひとつひとつが丁寧に吟味されていることに驚きました。例えば和食は、石川県産「夢ごこち」の白米がおひつで提供される他、のどぐろの干物(ふかふかの食感で甘く、とめどなくご飯を欲する)、野菜たっぷりな金沢の郷土料理「めった汁」など。さらに珍味5種(能登牛の時雨煮、ホタルイカの沖漬け、昆布ちりめんなど、季節によっても変わる)から3種を選ぶことができます。朝からついついご飯が進んでしまう、危険な朝食です。

総客室数は47室とそれほど多くなく、その分各部屋のスペースに余裕を持たせています。1部屋ごとに微妙に趣が異なっており、坪庭を設えた客室もありました。浴衣のデザインが素敵なのもテンション上がります。そして特筆すべきは、全てのバスルームにジェットバスを完備していること。LIXILのシステムバスルーム「スパージュ」は、通常のジェットバスとは別に、肩湯や打たせ湯のような機能も搭載されており、バスタイムの満足感がまるで違います。旅の疲れも十分に癒されました(特に肩こりに効きます)。

ラウンジでは、加賀水引や九谷焼など金沢の工芸体験も受け付けています(事前予約)。今回限定のサービスとして、加賀友禅の着付けとフォトセミナーを体験しました。第8代ミス加賀友禅・若岡真紀さんによる加賀友禅の説明の後は、実際に簡単な着付けをし、写真映えする美しいポージングの撮り方なども学びます。ラウンジ内には絵になるスポットが多く、あちこちでポーズを取って、にわか撮影会となりました。


水引とは、和紙のこよりで作られた細い飾り紐です。明治後期より民間に広まり、加賀水引の創始者、津田左右吉が研究し、全国に広まって行きました。祝儀袋や贈答品の熨斗などに使われており、一般には紅白や金銀が多いですが、ワークショップでは様々な色が用意されていました。好きな色を選び、小さな花の形の水引細工を作ります。基本の作業をマスターすると、意外とサクサク作れるのですが、出来上がりは作る人によって様々。ちょっとしたアクセサリーにもなります。 


九谷焼とは加賀独自の焼き物で、鮮やかな色絵が特徴的です。今回は、雨庵から歩いても12、3分のところにある「アトリエ&ギャラリー クリーヴァ」で行い、ろくろや絵付けの体験がありました。今後はラウンジでの出張ワークショップも検討中とのことです。九谷焼の絵付けは、線を描いたら上から全部塗り潰すので、なかなか難しい作業でしたが、どんな風に出来上がったのか、焼き上がりが楽しみです(1ヶ月くらいで送ってくれます)。


実は金沢訪問の最後の方でやっぱり雨が降ってきました。かなり大降りのざあざあ雨。慌ててホテルへ戻ると、スタッフさんは心得ていて、素早く大きめのタオルを持ってきてくれました。温かい加賀棒茶を飲みながら、雨の景色を眺めつつ、心も落ち着いてホッと一息。たとえ天気が悪くても、ささやかな幸せを味わえました。金沢は、やっぱり良いところです。 


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雨庵 金沢 

石川県金沢市尾山町 6-30 

076-260-0111 

https://www.uan-kanazawa.com 


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写真と文:江澤 香織
※ホテルの外観及び室内の写真は雨庵のカメラマンが撮影したものです。